自分の仕事の生産性を向上させたい? そうは言っても、人々の時間とタスクの管理を手助けすることを狙った技術やツールが爆発的に増えた結果、実際にはかえって時間とタスクの管理が一層困難になっているかもしれない。

生産性向上のための技術利用に関するウェブサイト「ライフハッカー」の編集長で、ロサンゼルス在住のウィトソン・ゴードン氏は、生産性向上のための新しいツールが「過去2、3年間で爆発的に増え、今では多過ぎてわけが分からない状態になっている」と話す。

多くの人々は自分の考え方や作業の仕方にぴったり合わないツールを使っていたり、次から次へと乗り換えたりして、時間とエネルギーを無駄にしている。生産性の専門家でカリフォルニア州オーハイ在住のデービッド・アレン氏は、人々は自分に合ったアプリケーションやシステムを選ばず、「最新のもの、話題を集めているものに引き寄せられている」状態にあると指摘する。同氏の執筆した「Getting Things Done」の英語版は160万部以上売れている。

また、生産性に関する講演、研修や書物の執筆を行っているデンバー在住のローラ・スタック氏によれば、システムの中には「あまりに複雑過ぎて続けられず、80%の人々が脱落する」ものもあるという。

生産性向上のツールに頼る前に、自分の弱点をはっきり認識しておくことは良い考えだ。大半のプログラムないし技術は、4つの基本的なプロセスのうち1つないし複数で問題を解決する、とうたっている。それは(1)全てのノート、カレンダー、ファイルからタスクと予定を集め、それを1つのシステムにまとめる(2)それぞれの事項について次のステップや好ましい結果を明確にする(3)全てをカテゴリー別に整理する(4)すべきことや予定をこまめにチェック・更新することを習慣にする-の4つだ。

ゴードン氏のライフハッカーが2032人を対象に行った調査によると、生産性向上の手法で最も人気なのが、アレン氏の提唱する「Getting Things Done(以下GTD)」方式だ。そのほかには、ポモドーロ方式(25分間邪魔されずにタスクに集中するよう訓練する)、アクション方式(ニューヨーク市に本拠を置くBehanceの提供するタスク兼プロジェクト管理プログラム)、それにカンバン方式(さまざまなプロジェクトのタスクを「やるべきこと、次にやること、終わったもの」の3つのカテゴリーに分類する)がある。

これらを自分なりに組み合わせた方法をとるというのが人気の解決法だが、これ自体がタスクになってしまうこともあり得る。ウェブサイト「CathoricMom.com」の創設者、リサ・ヘンデーさんはプロジェクトを行動ステップに分割するといったGTD方式の原理を利用し、執筆、講演、それに編集などの任務をうまくこなしている。彼女はグーグルカレンダーをいくつかに色分けして利用し、「エバーノート」というプログラムを使ってメモを取ったり整理したりしている。そのほかにも、「やるべきことリスト」を作るためのアプリ4つを試しに使っている。

ヘンデーさんは「いつもどれが最新のアプリなのかを気にしながら見ている」と話し、「問題の一部は、1つに飛びついたとしても、すぐに他のものが出てきて、モグラたたき状態になることにある」と付け加えた。

流行のデジタルツールは万人向けではない。スタック氏によると、ペーパーレスにしようとしてうまくいかなくなる人は多いという。ペンと紙を使うという感触的な経験が明確な思考に役立つこともある。「夜ベッドに入ったときなどに突如考えが浮かんだ」が、デジタル機器の電源を入れたとたん、それが分からなくなってしまう可能性もある。また同氏は、パソコンで文章を読むと頭が痛くなるとか、スマートフォン(多機能携帯電話)だと指が太過ぎてタイプできないといった不満も聞くという。

テネシー州ナッシュビル在住の会社経営者ジャクソン・ミラーさんは、それぞれの電子メール、電話やタスクをプロジェクトのカテゴリーにタグ付けしなければならないシステムを避けている。彼は「あまりに複雑なプログラムは好きではない」と話した。また、インターネットベースのツールも避けているという。ブラウザーを開くと、やらなくてはならないことが書かれた35のタブがこっちを見てよと言わんばかりに迫ってくる事態を避けたいからだ。

ミラーさんのお気に入りのツールの1つが、「レスキュータイム」という仕事量を追跡するプログラムだ。交流サイト(SNS)のフェイスブックやブログの更新に時間をかけ過ぎるとパソコンの画面に警告が表示されるもので、そのようなことを2回やると、今度はレスキュータイムが仕事以外のプログラムやアプリから彼を追い出す仕組みになっている。

ニューヨーク在住の生産性コンサルタントで、「Time Management from the Inside Out」を執筆したジュリー・モーゲンスターン氏は、新しいシステムを選ぶ際には柔軟性が高く、簡単に更新できるものにするといいと述べる。「1日に何回かチェックするはずで、あなたのガイドであり、ロードマップになるものだからだ。またその場で優先順位を決めたり、決め直したりできる必要もある」という。

一度システムを決めたら、それに時間をかけ、途中で投げ出さないことだ。デンバーに本拠を置くMcGhee Productivity Solutionsの上級コンサルタント、マーク・マセルマン氏によると、同氏が担当したある企業幹部は、新たなシステムについて学ぼうとしていたが不満が募り、1カ月後には「お手上げ状態になって、それをやめてしまった」という。マセルマン氏はこれをサーフィンにたとえ、サーフボードの上に立てるようになるまでに数週間かかることもあると述べ、システムを続けるようこの幹部を激励した。

生産性を上げるためには、悪い習慣を絶つことが必要になる。例えば全ての電子メールに返信するといった習慣だ。前出のスタック氏は「返信していないことに後ろめたさを感じる人は多い」と指摘する。2012年のマッキンゼーの調査によると、管理職や専門職は業務時間の28%を電子メールに費やしているという。

ロバート・ブロカンプさんは、いくつかの生産性向上アプローチを試してはやめた。そしてその後、GTD方式の諸原則、エバーノート、マイクロソフト「アウトルック」のカレンダーとタスクリマインダー機能を使った手法を編み出すに至った。彼は午前6時にベッドから出て、フィナンシャルプランナーで投資サイト「モトレー・フール」のライターとしての仕事のために文章を読んだり、計画を立てたりする。そして、パソコンのタイマーを25分後にセットして、タスクに集中する。さらに、職場ではメンター(指導者、助言者)に協力を依頼し、アメとムチを出させた。つまりメンターは、アメとしてはブロカンプさんに小さな利益で満足するよう促し、ムチとしては1日の「やるべきことリスト」の3分の2を終えられない場合に10ドルの罰金を課した。

その結果、ブロカンプさんは、ようやく大きな教訓を得た。彼が言うには、生産性向上は、より良いアプリや適正なソフトウエアを探すことではない。「究極的には自己管理に行き着くということだ」という。

 

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